2021/12/04 Category : ドール 霊玄館奇譚 その壱 その館はそこに有り続けた。 その館はいつからそこに有ったか知らぬ。 その館はどこにでもある。 その館は あなたの街にもある。 まるで迷宮のような造り。 誰がそう造ったのかはわからない。 どこに果てがあるかもわからない。 そこは幽玄たる楼閣。 そこは凍れる居城。 そこはぬくもりの庵。 ???「また、誰か迷い込んできたようだね。 落ち着きたまえ。鬼がいるわけではない。 ここには、ね。」 うろたえるあなたの視界に、先程まで何もなかった場所に、 いつの間にか男が座っていた。 ???「時々ある。特別な条件を経てここに迷い込むものがいる。 別にそれは構わない。誰に口外しても良いよ。 誰が信じてくれるかはわからないが。」 あなたを一瞥もせず、男は続けた。 ???「ここは霊玄館。ずっとここにあった。 君が気が付いたのが今日だっただけの話だよ。」 ???「君たちには何も関係ない所だ。好きにしていると良い。 出口はあちらだ。気が済んだら戻るのもいい。 ここに居たければ居ればいい。」 子供たちが猫と戯れている。 一人は外国人のよう。金色の髪に青い目をしている。 一人は日本人のよう。黒い髪と赤い目をしている。 あなたに気が付いているのかいないのか、ずっと猫をかまっている。 ???「気にしないでくれ。彼女たちもこの館の住人だ。」 男は言い、続ける。 ???「人も、ヒトではないモノもいる。誰がいても良い所だ。」 人ではないもの。猫だろうか。他にもいるのだろう。 ???「ふふ、まぁ良い。そう思っておくのが一番良い。」 まるであなたの考えを見透かすかのよう、男が微笑んだ。 ???「…おや、どうやらここまでらしい。」 男のサイドテーブルに置かれたパソコンにメールが来たようだ。 ???「君は…帰るといい。帰れる人間だ。」 男が優しく微笑んだ。 ???「さぁ、行こう。玄関まで送る。僕も用事が出来てね。」 時代錯誤な外套を身にまとい、男が言う。 ???「もう会わないかもしれない。 また会うかもしれない。 どちらになるかはわからないが、 会うその時はまたここでお目にかかるだろう。」 男が外套の襟越しにあなたを見る。 おそらく、小さく笑っている。 ???「八雲 玄一郎。僕の名前だ。しかし憶えておかなくてもいい。」 八雲、と名乗った男は目を細めて言う。 八雲「だが、僕はまた会えると思っているがね。」 ── ──── ─────── ──── ── あなたが気が付いた時、霊玄館は無かった。 八雲という男もいなかった。 少女たちと猫もいなかった。 あなたが見た白昼夢か。 それとも現実か。 誰に話してもいい。 誰も信じないかもしれない。 そしてあなたも 忘れてしまうかもしれない。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword